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キングダムカム・デリバランス 2019: ブルノ編

イントロダクション

Warhorse Studios のゲーム, キングダムカム・デリバランス (Kingdom Come: Deliverance. 以下, KCD) の「聖地巡礼」旅行としてチェコに行ってきた記録. 今回は 2019/5/2 のブルノ (Brno) 日帰り旅行の話である. ブルノはゲーム中には登場しないが, KCD の時代に関連する文化遺産が多く残っていた. よって, あまりネタバレはないと思う. 具体的には

  • チェコ鉄道の利用方法
  • ハヌシュ卿と縁のあるシュピルベルク城
  • 市内の景観
  • 鋳貨博物館

について話しておく.

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キングダムカム・デリバランス日本語版は 2019/7/18 発売

Published by DMM GAMES, © 2019 and developed by Warhorse Studios s.r.o., Kingdom Come: Deliverance® is a trademark of Warhorse Studios s.r.o. Co-published by Koch Media GmbH, Austria. Deep Silver is a division of Koch Media GmbH, Austria. Deep Silver and its respective logos are trademarks of Koch Media GmbH. Co-published in Japan by ZOO Corporation. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners. All rights reserved.

なお繰り返すが, 私は Warhorse Studios の関係者でも DMM Games の関係者でもない.

プラハからブルノへ

現地の写真だけ見たい場合はここは飛ばしてください.

私は旅行期間中ずっとプラハ市内に宿泊していたため, この日も早朝にプラハから鉄道でブルノへ向かった. ブログの掲載順とは異なり, この日がチェコ鉄道 (ČD; České dráhy) の初利用だった.

ブルノへは, EC Metropolitan*1 という特急を利用した. EC とは Euro City の略で, 複数の EU 加盟国をまたいだ区間を走る多国間鉄道である. Metropolitan はチェコの首都プラハからスロヴァキアの首都のブラチスラヴァを経由して, ハンガリーの首都ブダペストまでを走る. 国際路線のため, 車内ではチェコ語・ドイツ語・英語の3ヶ国語での行き先表示や注意書きがあった (スロヴァキアやハンガリーに入ると現地語に変わるのだろうか?). よって, 初挑戦するチェコ鉄道の列車としては難易度が低めだと思われる. また, 日本ではあまり利用することができない食堂車も連結されている.

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EC Metropolitan
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車内の自転車ラック

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コンパートメントになっている車両が多い. ここは照明も自動ドアも壊れていたので利用客がいなかった.

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ガンブリヌス・ビールとシュニッツェル
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くん製肉とクネドリークのわさびソース和え

具体的には, プラハ本駅 (Praha hl. n.; Praha hlavní nádraží の略記) から乗り, ブルノ=ジデニツェ駅 (Brno-Židenice n.) で降りる. そこからブルノ本駅 (Brno hl. n.) 行きの普通列車 (Os; Osobní)*2. に乗る. ブルノはチェコ南部最大の都市であり, 国内でも第2の規模を誇る都市なので, ほとんどの列車は停車するだろう.

なお, 私は間違えてブルノ・ジデニツェの次のブルノ・ドルニー駅 (Brno-dolní n.) で降りてしまった. ドルニーから本駅へは直通列車がないので慌てて駅員にどうすればいいのか訪ねた. すると, 列車の接続はないものの, 鉄道会社が運営しているバスが本駅まで行くこと, バスと鉄道の切符は共有されているので新たに料金を払う必要がないことが分かった (下手な英語を聞きとって親切に答えてくれた駅員さん, ありがとうございました.). 歩いて行けない距離ではないが, 時間は限られているのでバスに乗った.

チェコ鉄道の使い方

プラハ市内ならば地下鉄 (metro), バス (autobus), 路面電車 (トラム; tram, tramvaj) は同じ料金体系で, 同一の切符を使うことができる. 一方で, チェコ鉄道の列車に乗るにはチェコ鉄道の切符を買う必要がある. 切符はインターネットで事前購入するか, 駅の窓口で購入する. 田舎の無人駅の場合は, 乗車してから車掌から購入する. 日本と違い改札口がないため, 検札は車内で行われる. 大きな駅ならば英語を話せる駅員がいることが多いので, そこまで不安になることもないだろう. 基本的に駅名を言えばその駅からの切符を買うことができる. 往復で欲しい場合は,

”Do Brno, zpáteční, prosím.“ (ド ブルノ, スパーテチュニー プロスィーム)

と言えば通じた. これは直訳すると「ブルノへ, 帰りもください」という意味になる. 聞き取ってもらえるか不安ならば紙に書いて見せれば良い (残念ながら私は何度か駅名を聞き間違えられた. 一文字一母音の日本語ライクな発音だと聞き間違えられる可能性が大きい.). EC Metropolitan はいわゆる特急だが, 1st class に乗るのでなければ特急券のようなものは必要ないようだ.

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プラハ本駅のエントランスホール
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プラットフォームへのエスカレーター
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プラットフォームからエントランスへ.
エスカレータには段差がなく, 先ほども言ったように改札口もない. そして自転車を積める列車もあるので, プラットフォームまで自転車に乗って移動している横着な人もいた. が, 自転車移動が禁止を伝える標識も見当たらなかったので, 許可されているのかもしれない.
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夕方のプラハ本駅のプラットフォーム
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なにか謂れがありそうだが, よくわからない銅像
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プラハ本駅のドーム

チェコの駅では, 日本と違いどのホームにどの列車が停まるかは直前までわからない*3. いったん停車場所がアナウンスされても, その後で変更されることもたまにある. そこで, Můj vlak (ムーイ・ヴラク, My Train という意味) というアプリをおすすめする.

play.google.com

これはチェコ鉄道による, いわゆる鉄道乗換案内アプリである. このアプリで確認すれば, 列車に食堂車, バリアフリー対応車両, 自転車置き場があるかとかを確認できたり, プラットフォームに停まるかとか, 遅延しているかどうかなどをリアルタイムで確認できる (英語表示されているが, ところどころ注意書きがチェコ語のままなのはご愛嬌ということで).

ブルノ本駅周辺

プラハ同様, ブルノ市内にもトラムの路線があり, 鉄道とは別の料金体系である. チケットのデザインは異なるものの, プラハ市内のトラムと同様に時間制である. 日帰りの予定なので半日しかいなかったが, 私は念のため24時間券を買った. しかし, ブルノ本駅前のトラムのターミナルがなかなか難易度が高かった. 同じプラットフォームの, 左右にそれぞれ別の路線の発着所が設定されていたのだ. 当初は片方の路線図だけを見て, 間違えたと勘違いして別のプラットフォームに移動し, また違う, ということを繰り返してしまった.

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ブルノ本駅のトラムターミナル
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(左) プラハ市内のトラムの切符 (右) ブルノ市内のもの

シュピルベルク城 (Hrad Špilberk)

ブルノ市の中心にある丘はまるごと シュピルベルク公園 (Park Špilberk) となっており, その敷地内には13世紀のプシェミスル (Přemysl) 朝時代にオタカルII世 (Otakar II) によって建てられたシュピルベルク城 (Hrad Špilberk) がある. KCD の写本 (Codex) によれば, 主要キャラクターの1人であるハヌシュ卿 (Sir Hanush of Leipa; Pan Hanuš z Lipé) は, ハンス・カポン卿 (Sir Hans Capon; Pan Jan Ptáček) が成人によって保護者の役目を終えた後, 一説には, このシュピルベルク城で隠居したと言われている. 城の周囲は芝生と植樹がなされており, 日本でもよく見かける公園の風景だった. なぜか馬がいる以外は……

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公園の入口
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よく見ると細いリードで繋がれている
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もう1頭
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城の正門 (現在は修復工事中のため入れない)
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近代要塞らしい城壁

城が最初に建てられたのは13世紀ごろだが, 後世にも引き続き増改築して使われていたため, 現在の姿は近世・近代の要塞の趣がある. 城内は博物館となっており, 中世のゴシック様式の城から19世紀のオーストリア帝国, 20世紀のナチスによってそれぞれ政治犯収容所として使われた時代まで, 豊富な展示品があり, なかなか見応えがある. 地下牢・拷問器具の展示品もあったようだが, どうやら見落としたようだ. 順路がわかりにくい上に, キュレーターの人が「こっちはもう見た?ぜひ見てよ!」と言って本来締め切りのはずのドアを空けて誘導してくれるという, 「親切すぎる」対応をしてもらったりしたためだろうか. 展示品は様々で, 中世期の剣や鎧, ナポレオン戦争時代のプロイセン軍マスケット銃ピッケルハウベ (トゲ付き軍帽), 近代のナチスの遺品など多岐にわたる. 個人的には 17~18世紀のポーランドのサーベルの展示が思わぬ収穫だった.

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獄死したカルボナリ党員の慰霊碑
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展望塔から見下ろす入り口
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展望塔から見る市の中心部
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城の中庭

KCD に関連の深い展示物としては, モラヴィア辺境伯ヨープスト (Jobst of Moravia; Jošt Moravský; Jobst von Mähren) にまつわるものだろうか. チェコ南東部は古くからモラヴィア (Moravia) と呼ばれ, ワインの産地として有名だった*4. 肥沃なモラヴィアの領主であるモラヴィア辺境伯の地位についたヨープストは国王であっても無視できない実力者であり, ヨープスト自身もその地位を利用した巧みな駆け引きで権勢を拡大したと言われている. シュピルベルク城を建てたのは, 他でもないヨープストと言われている. 城内には, ヨープストの遺骨から再現した頭部像や, ヴァーツラフIV世とカールIV世と並び立つ写本の挿絵が展示されていた.

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ヨープスト (Jobst) 辺境伯の再現された頭部像
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左から、ヴァーツラフ, カール, ヨープスト
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チケットの裏面の城の見取り図. 近世の星型要塞に改築されているのが分かる


鋳貨職人の地下工房 (Mintmaster’s Cellar)

KCD の物語は西暦1403年3月23日の銀山の街スカリツェ (Stříbrná Skalice) から始まり, ゲーム中にも銀貨にまつわるクエストがある. そこでブルノに行くときは, シュピルベルク城とこの Mintmaster’s Cellar (Mincmistrovský sklep) という施設を必ず見学しようと予定していた.

https://ticbrno.cz/en/underground/mint-masters-cellar

結果的に, この場所は予想以上にすばらしい博物館だった. ガイドが非常にフレンドリーで, アドリブを聞かせた丁寧な説明をしてくれた. ここで展示されているのは, もちろんブルノで作られた銀貨である. 貨幣を発行するというのは, 権力者にとっては単なる経済活動のためだけでなく, 自分の権勢を誇示し, 誰がその地の支配者であるかを人々に知らしめるという目的がある. 15世紀初頭にこの地を支配していたヨープストも, プラハボヘミア王が発行するグロシュ (グロッシェン) 銀貨とは別に, 独自の銀貨を発行していた. ヨープストの時代の銀貨は小さいものだったが, 後世になるほど銀貨は大きくなっていく. これは銀の含有量が減ったことが原因だが, 銀貨に彫られた肖像も大きくなっていくのが興味深い. ガイドによれば, 時の権力者は自分の権勢を誇示する目的で肖像画を彫らせていた (これは古代ローマから続く習慣である). そのため, 肖像は美化され, 誇張されていた. 当初は控えめな大きさだった横顔が, 徐々に銀貨の輪郭からはみ出さんばかりの偉丈夫となっていく, と彼は笑いながら説明してくれた.

展示品は銀貨だけではなかった. KCD の物語から約20年後, 1428年と1430年にブルノは戦火に巻き込まれた. フス戦争 (Hussite War) である. 地下室には, 当時の教会のアーチや, 投石機によって市内に投げ込まれた石弾が展示されていた.

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銀貨を彫る型とハンマー. 後には効率化のためプレス機が導入された.

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投石機の石弾

さらに, ブルノ市内には縦横無尽に地下道がめぐらされており, 様々な用途に使用されていた. その地下道の見学もできたのだが, 時間が足りなかったので断念した.

なお, Mintmaster’s Cellar の入り口は全く目立たないので注意. 私が訪ねたときも, 入り口の前に車が停めてあったので見落としてしまった.

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Mintmaster's Cellar の入り口

ヨープストの治世に発行された銀貨のレプリカ. この時代はまだ横顔が彫られていない.

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ヨープストの銀貨

ブルノ市内 (Town Center of Brno)

ヨープストの騎馬像 (Statue of Margrave Jobst)

兜を装着しているため顔はわからないが, 馬の足元にルクセンブルクのヨープスト (Jošt Lucemburský) という銘板が埋め込まれていた. なお, この撮影時点では知らなかったが, Mintmaster’s Cellar のガイドによれば, 背後の建物の右にある像もヨープストがモデルになっているという.

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ヨープストの騎馬像

聖ペテロ・パウロ大聖堂 (Cathedral of St. Peter and Paul)

チェコ語では Katedrála svatého Petra a Pavla という. シュピルベルク城の展望塔からも目立った教会. 堂々たるゴシック様式の尖塔だが, 実はこの部分が作られたのは20世紀に入ってかららしい.

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聖ペテロ・パウロ大聖堂の正面 (路地なのでこれ以上引いて撮ることができなかった...)
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聖ペテロ・パウロ大聖堂の尖塔

自由広場 (náměstí Svobody)

インスタ映えしそうな景観である.

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Liberty Square in Brno, Czech

野菜市場 (Zelny Trh; Vegetable Market)

野菜市場はブルノ市内のもう1つの広場である. 私が訪ねたときも, フリーマーケットが開かれていた. 野菜市場の地下にも地下道がはりめぐらされているらしい.

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Vegetable Market in Brno, Czech

マサリク大学 (Masarykova univerzita)

哲学者であり, チェコスロヴァキア共和国初代大統領でもあるトマーシュ・マサリク (Tomáš Masaryk) を記念する大学. 後で知ったのだが, これは裏口で, 正面にはマサリクの立像が置かれているようだ...

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マサリク大学の裏口

ところで, この大学では KCD を歴史科目の教材として使ったことがあるらしい.


www.playstationlifestyle.net
www.gamespark.jp

その他

あまり計画を立てずに来てしまったため, 他にも多くの見どころがあったにも拘わらず見ることができなかった. 次来るときは以下も見てみたい.

  • ブルノの地下道
  • トゥーゲントハット邸 (Vila Tugendhat, 世界遺産, チェコ現代建築の代表例)
  • モラヴィア博物館・メンデル博物館
  • ヴェヴェシー (Veveří) 城 (ヨープストの居城)
  • アウステルリッツ (Austerlitz) の古戦場 (実はブルノ郊外である)

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この記事を書いている最中に日付がかわってしまったが, 本日 2019/7/18 はキングダムカム・デリバランス日本語版の発売日である.

kingdomcomerpg.games.dmm.com

続編

翌日3日目は, トロスキ城へ行った
under-identified.hatenablog.com
4日目は, いよいよ KCD の舞台となったサーザヴァ川流域へ行った
under-identified.hatenablog.com

最終日の午前中はクトナー・ホラ (ゲーム中ではクッテンベルク) へ
under-identified.hatenablog.com

初日と最終日はプラハで過ごした
under-identified.hatenablog.com

*1:https://www.cd.cz/en/nase-vlaky/ec-ic/armpee/-27279/

*2:日本でいう各駅停車だが, ローカル線では路線バスのように, 乗降客がいないときには停車しない場合がある

*3:チェコには, 国有鉄道であるチェコ鉄道の路線がほとんどで, 民間企業による列車の乗り入れはあるものの, 線路や駅などのインフラはほとんど全てがチェコ鉄道のものである. よって, チェコ国内ならどこでもこの事情は変わらないと思われる.

*4:KCD のゲーム中でもモラヴィア地方の都市であるズノイモ (Znojmo) 産のワインを欲しがる人物が登場する