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Hellish Quartの基本ルールと戦術解説


要約

アーリーアクセス中で細かい変更が繰り返され, 説明が読みづらくなったので再編集した. 2023年12月に開発者(Kubold)が投稿した動画の構成を元にしている.

Hellish Quart - Gameplay Explained (How to Play) - YouTubewww.youtube.com

作者が明言していることに加え, 私の推測や検証した結果も交えている.

2024/1/6 追記: なぜか動画を消して再投稿されていたのでリンクを修正した.


移動と攻撃の基本操作

1’40から3’15までの内容に対応している

基本的な攻撃はX字の4方向でなされ, それぞれにボタンが割り当てられている. つまり, 左右・上下からの対角線に沿った4通りの攻撃がある. 十字パッドは前進・後退と手前・奥移動 (キャラクターの視点では左右移動) に対応している. 同じ方向に同時2度押しすると, 飛び跳ねる動作となる. つまり, 鉄拳シリーズに似ている.

鉄拳とMeyerどちらから着想を得たのかはわからないが, Meyer風にボタン割り当てを表現すると, こうなる.

基本攻撃動作と移動キーを組み合わせると, それぞれ異なる動きになる. 加えて, 各キャラクター特有の特殊な攻撃動作が用意されており, ゲーム内のコマンド表で確認できる. ただし, ゲーム内のコマンド表には書き間違えがそこそこある.

こちらにコマンド表と簡単な補足説明を書いた.

“Hellish Quart” のコマンド表とか公式剣術解説の解説とか - pre-α版 - Sarmaticusunder-identified.hatenablog.com


自動防御について

3’15-3’50くらい

Hellish Quartは多くの格闘ゲームとは異なる, 物理演算ベースの防御ルールを採用している.

Hellish Quart の防御は, 格闘ゲームでよくある, 上段ガードしていれば上段への攻撃に無敵, 下段ガードしていれば下段だけ無敵というようなルールとは異なる. 削り技とかもない.

Hellish Quart では, 何も入力をしていない状態であれば自動的に防御姿勢になる. しかし, この防御とは, 相手の攻撃動作に反応してキャラクターごとに決められた防御の構え姿勢になるだけで, 構えの変更には現実的な時間がかかり, 当たり判定はリアルタイムでなされる. よって, 攻撃時のお互いの立ち位置やタイミングによっては自動防御だけで防ぎきれないことがある. 典型的なものは, 左右どちらかに踏み込みながらの攻撃で, 少し攻撃の方向がずれるだけでも防御をすり抜けやすくなることがある. そのため, 確実に攻撃を防ぐには相手の攻撃に合わせて後退する, 逆方向へ飛び退くなどの操作も必要になる.

リアルタイムの当たり判定というのは本当にリアルタイムである. つまり, 防御姿勢でなくても, 常に剣には当たり判定があり, お互いが攻撃中でも剣がぶつかってそれたりする.

自動防御は攻撃と同様に, 4方向の構えが用意されているようだ.

これまで開発者の説明がわかりづらかったが, 今回の動画ではっきりと明言されたため, 開発者のやりたいことがなんとなくわかった気がする. 自動防御というのは, 4つの防御方向の決定までプレイヤーに操作させると大変なのでこういうルールにしたということではないかと思う. 最近になって taunt という新要素も登場しているように, 後退すれば攻撃を確実に自動防御で防げる, というようなシンプルなルールにするつもりはないようだ.


ダメージ判定について

3’50から4’03くらいでごく簡単な解説がなされる.

Hellish Quartでは体の部位ごとにHPが設定されている. また, 残りHPはスタミナに影響する.

上記動画ではダメージ判定をあまり詳しく解説していない. ダメージ判定は厳密には一撃必殺ではなく, ブシドーブレードに似て, 体の部位ごとにHPが設定されている. しかし真剣を振り回してるので, 当たったらだいたい即死するくらいのダメージが入る. HPは普段は表示されていないが, 表示する機能もある. ダメージの大きさは固定ではなく, 物理演算エンジンを利用している. 細かい仕様は説明されていないが, おそらく運動エネルギーで加算しているのだろう. つまり, 剣を振ったときに先端が当ったり, 振る速度が速いほどダメージが大きくなるのだろう.

体の部位ごとにHPが設定されており, いずれかの部位のHPがゼロになっただけでも死ぬ. 例えば頭部や右腕はHPがとても低く設定されているが, 左足や胴体は高めなので, 一撃では決着がつかないことがよくある. なお, 部位HPの配分はキャラクターによって多少異なる.

ダメージに関して, 開発者によるものではないが, この動画がわかりやすい.

Hellish Quart - Stamina & HP Explained! - YouTubewww.youtube.com

各部位のHPが減ると, 相応のペナルティがある. 合計HPは同じく隠しステータスであるスタミナの最大値と, 回復速度に対応している. 攻撃や急な移動を連続で繰り返すと, スタミナを消費し, スタミナが低下すると移動・攻撃や後述の自動防御の反応が遅くなり, 剣も持ち上げられなくなり露骨に隙が生まれる. スタミナだいたい50%を切るとこの症状が現れる. HPはスタミナ最大値に対応しているので, 深手を負うとそのラウンド中は常時このような状態になることもありうる.

ただし, スタミナの増減ルールはこれまで, けっこう頻繁に変わっている. 個人的には防御されるより空振りしたときのほうがスタミナ減少が大きいというのが気に入らない.


突き攻撃とバインディング

突きとバインディングの話は, 元の動画ではこの後の基本戦術の紹介で少しだけ触れられる. しかしそれだけでは操作方法の説明として不十分なので, ここで独立した項目として説明する. 開発者の過去の動画では, より詳細に説明している.

Hellish Quart - Update: Blade Bind for all characters - YouTubewww.youtube.com

自動防御は, 4方向の基本攻撃のいずれかに対応した構えになるだけなので, 自動防御は4方向からの斬撃には対処できるが, 突き攻撃に対して発動しないため, 無力である.

キャラクターは突き攻撃に対して自動防御をしない. その代わり, LTボタンを押しっぱなしにすることで対処できる. LTを押すと, 「ロングガード」と呼ばれる剣を水平に付き出した姿勢を取る. この状態では, 相手の剣に軽く触れるように剣の位置が自動的に補正され, 相手が突き攻撃をすると, 突きの軌道を反らすように自分の剣を自動的に軽く動かすようになる. 開発者はこの動作をバインディングと呼んでいる. マリーやマルタなどのレイピアを使うキャラクターは通常の構えも剣を突き出しているよう見えるが, やはりロングガード姿勢でないとバインディングが発生しない.

ロングガード姿勢では突き攻撃に対して自動でバインディングするが, それ以外の攻撃に対する自動防御は発生しないので注意しなければならない. 相手の構えやキャラクターの特性に合わせて使い分ける必要がある.

ロングガードは突きに対処しやすくなり, なおかつロングガード姿勢で突き攻撃を使えるようになるキャラクターが多いため, サーベルを使うキャラクターがレイピアに対処するときなど, 突き主体の攻防で積極的に使うことになるだろう.


異なる構え

これも上記動画では紹介していない.

自動防御以外にも, プレイヤーが好きなタイミングで構えを変える方法がある. 全てのキャラクターで使用できるのは, LTボタンを押しっぱなしにして発動する「ロングガード」である. 普段と異なる構えを取った状態では, 使用できる技が変化するし, ロングガード以外にもいろいろな構えを使えるキャラクターがいる. 詳細はコマンド表を見てほしい.

通常とは異なる構えでいるとき, ほとんどの場合は自動防御が発生しなくなるので, 使いどころに注意が必要になる.


ごく基本的な戦術

4’05 から 8’00 くらい

Hellish Quart は実際のHEMAの試合や昔の決闘のリアルさを目指しているので, 従来の格闘ゲームとはかなりやり方が変わってくる. 剣を使うので, 徒手格闘ほど連続攻撃ができず, ターン制に近い考え方で戦うことになる. そこで, 開発者がいくつかの基本戦術を提案している.


1. 後の先

5’11 から 5’40 くらい

開発者は Second intention と表現している. 要するに後の先, あるいはコントレ・リポストのことだと思われる. 攻撃を受けると, 相手は反撃をしたくなる. その反撃を見越して, 防御されてない方向からの再反撃を行え, ということらしい.


2. 間合いを使ったフェイント

5’45 から 6’08 くらい

後の先はキャラクターの攻撃動作の特徴を覚えないと難しいので, こっちを先に紹介したほうがいいのではないのかと思っている.

第2の戦術として, 前進して間合いに入ると見せかけて, すぐ後退することで, 相手の攻撃の空振りを誘うことを提案している.


3. ロングガードを使った戦術

6’05 から 6’45くらい

既に説明したように, 斬撃と突きとで, 対処できる構えが異なる. ロングガード姿勢を取れば相手は突きを警戒して相手もロングガードとなる. ロングガードは突き攻撃にしか対処できないので, そこですかさずロングガードを解除し斬撃攻撃をすれば, 自動防御の前に攻撃を当てられる, と提案している. なお, ロングガード姿勢から斬撃できるキャラクターもいる.


4. グラップリング

6’50 から 7’05

剣を持ってない方の手を出すボタンがある. 手の届く距離であれば, 相手を押したり殴ったりして姿勢を崩せるので, すかさず追撃して命中させられる. 攻撃が届く距離でも攻撃しない相手に対して効果がある, と提案している.


5. 対の先

7’10 から 7’30 くらい

Hellish Quartの防御判定はリアルタイムでなされる. つまり, 剣の位置が適切なら, 相手の攻撃を防ぐことと, 相手に攻撃することを同時にできる. そこで, 相手の攻撃の動作に対して, 防ぎながら攻撃できるような動作の攻撃を選択することを提案している. Hellish Quart ではキャラクターの動作の多くは実際の試合や歴史的に使われたものに基づいているので, そういう動きが多数ある. 完全にカウンター用途として技が用意されている場合もあるが, 剣の軌道の相性さえ良ければ成立する戦術である. 後の先と同様に, 使いこなすにはキャラクターの動作をよく覚えておくことが重要だろう.


6. 横方向の戦術

7’30 から 8’00

自動防御はどれも敵を正面に対して捉えていることが前提の構えである. そこで, 横移動もうまく使って攻撃することを提案している. 例えば, 棒立ちで右上からの斬りおろしをしても, 相手は剣を自分の左側に持ってきて防御するだけだろう. しかし, 左に移動しながら右上からの攻撃を行えば, 攻撃がより左, 相手にとっては右にずれるため, 防御をすり抜けることがある. 防御姿勢はキャラクターによって少しづつ異なるので, よく観察すれば, この戦術が成功しやすい方向と攻撃動作の組み合わせが見つかるだろう.

この戦術の典型例は, 登場して間もないころのラースローに対する左移動しながらの左上段からの斬りおろしだろう. 今は修正されてそこまで顕著でなくなったが, 以前のラースローの構えは, 肘を突き出してふりかざしていたので, 左上段から切りやすかった.

こういった話にこれまでまったく接点がなかった人は, このように説明されてもよくわからないかもしれない. そういう人は, 一人称視点モードで練習するといいかもしれない. 一人称視点モードであれば, 攻撃がどういう太刀筋で相手に向かっているのか, より直感的に分かるはずだ. 一人称視点モードは開発中と書かれてはいるが, 今のところは致命的な問題が起こることはないと思われる.

追記: Daniel Popeという人物の投稿している動画が参考になりそうだ. 当たり判定やお互いの剣の位置を動画に重ねて図示しながら説明しているので, 剣術知識がなくともHellish Quartに登場する技の意図がわかりやすいのではないかと思う.

例えば, Kalkstein, あるいは Marie の一部の技であればこの2つの片手剣の動画が良いだろう. この2つのキャラクターは正確にはイタリアの Marozzo と Capo の動きを参考にしたらしいが, Mayer の片手剣術はイタリア式の剣術の影響を強く受けているので, 似ている技が多い.

www.youtube.com

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しかし, 一方で, Daniel Pope氏の投稿した動画の中には, 長剣もサーベルも対応するスタイルのものがない. (そういえばなんで Meyer の長剣使いがいないのだろうか? 17世紀ならFioreやLiechtenauerよりMeyerのほうが多数派ではないだろうか)

しいて言うなら, Gedeon はドイツのDussackの動きに近い.

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フェイントについて

この項目は開発者の動画ではあまり細かく解説されていない.

2023.12.05.0時点では, 上記のようなプレイヤーによる戦術以外に, フェイントと呼ばれる動作は3種類ある.

  1. 攻撃動作を開始した直後にキャンセルし, 別方向の攻撃をすること
  2. コマンド表で「フェイント」と黄色で書かれている技を使うこと
  3. LBボタンで発動する taunt を使うこと

攻撃直後に方向キーを2度押しすると, 攻撃動作をキャンセルできる. このルールを使用してプレイヤーにフェイントをかけられる. これが(1)である. (2, 3)はキャラクターの自動防御に対するフェイントである. (2)は, コマンド表に「フェイント」と書かれている技を実行すると発生する. フェイント対応技の動きは実際にフェイントをかけるかのようなアニメーションになっており, 予備動作が長い. その代わりに相手キャラクターの自動防御が誤った方向へ発動する. (3)も(2)とよく似ている. その場で大げさに踏み込むことで, 相手の自動防御の構えを強制的に変えられる. 続いてすぐに防御されてない方向への攻撃を入力すれば, 攻撃が当たりやすくなる. 攻撃動作をよく覚えておく必要があるだろう.


Right of Way について

動画では 8:00頃から説明される.

ゲームモードを選択する際に Right of Way モードを選ぶと, ダメージの判定が通常とは異なるルールになる.

先にフェンシングのルールを知ってる人へ一言: 要はフルーレのフラーズ・ダルムのことです.

まずはこのルールの背後にある文脈を説明する. 得点先取が勝ちにつながる対戦ルールでは, 相打ち (double kill) がしばしば発生する. まず生き残ることこそ実用的な武術なので, 得点形式の試合ばかりやっていると, 自分が攻撃を受けることも顧みず得点を取りに行くような実用的でない剣術になる, という思想がある. 現実に貴族階級ひいては市民にも剣術の試合が普及した, 近世から近代の境目に現れた考えであり, ここからフェンシングのフルーレのルールが生まれた. これと同等のルールが適用されるのが, Right of Way モードである.

Right of Way モードでは, 相打ち時に勝利判定が与えられる「攻撃優先権」を, プレイヤーのどちらか片方が持っており, 以下のようなルールで優先権を奪い合うことになる. 優先権のあるキャラクターの頭上に王冠アイコンが表示される. 相打ちではなく, 一方的に攻撃を当てた場合は, これらの判定はなされず従来通りの勝ち点になる よってこのルールでは, 「負けそうならダメ元で, あるいは苦し紛れに相打ち狙いの攻撃をする」といった戦略が有効でなくなる.

  1. 先に一歩踏み出したほうが優先権を得る.
  2. 立ち止まったり, 後退した時点で優先権を失う
  3. 攻撃が空振りするか, または防御されると優先権を失う

なお, 「同時」と判定される時間がどれくらいなのかは明かされていない(現実のフェンシングではルールで明記されており, ルールに従って電気判定機が作られている)

ちなみにKuboldも最後に言ってるように, こういうルールがあると, 攻撃優先権がある間に攻撃をわざと受けることができてしまうという問題がある. 批判からright of wayを再びなくしたルールが, エペの起源である.*1

*1:フルーレとエペでは, 当たり判定が胴体のみであるというのが現実的でないという批判も含まれている.