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“Zrodzeni do Szabli” (2019) のレビュー - ウマ娘は走るために生まれてきた, 17世紀のポーランド人は剣に生まれてきた, お前は何のために生まれた? -

© 2020 by Zrodzeni do Szabli.

はじめに

よくきたな, おれは under-identified だ. 毎日おれはものすごい量のテキストを書き続けているが, その全てを見せる気はない.

だが先日おれはようやく映画 “Zrodzeni do Szabli” を見ることができた. これは 2019年の12月に公開された1時間程度の映画だが, 日本では全く話題にならない・・・おそらく日本では映画として公開されることも地上波放送されることもないだろう. だから特別に書いたテキストを見せることにした.

この “Zrodzeni do Szabli” は英題では “Born for the Saber” でありすなわち「剣のために生まれた」というタイトルの歴史映画だ. これは1時間程度の短いものだ. そしてドラマというよりドキュメンタリめいた形式であり, 節目ごとに専門家の解説が挿入される. そしてすべてポーランド語だ. これを聞いたおまえはこう思うだろう「え? ポーランド語なんてわかんないし...エヴァンゲリオン完結編とかもう1回見よ…… 」おまえのそのような考えは完全に誤りであることが証明されている.

あらすじと解説

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生まれた子が洗礼を受ける時, 騎士は二振りの剣を交差させた上に抱きかかえました
その子が剣のために生まれ, ゆえに剣とともに生き, そして死ぬ運命を象徴しているのです

ときは17世紀ポーランド, ポーランド・モスクワ戦争の終結直後, 軍務を終えたヤン*1は帰郷し, そこでかつての盟友マチェイ*2に頼まれ彼の幼い息子ブワジェイ*3に剣術を叩き込む.

この映画に男女のロマンスとかなんか全方面に配慮した演出とか, そういうのはない. この物語の主人公は剣そのものだ. 作中で解説している文学者によれば, 当時のポーランドでは剣〈サーベル*4〉とは戦士の代名詞であった. すなわち剣は戦士であり, 戦士とは剣として生まれてきた者たちだった. これは剣として生まれ, 生き, そして死んだ真の男たちの物語なのだ.

16世紀から200年にわたりポーランドは軍事大国として君臨した. だがその時代は終わりのない戦乱の時代でもあった. ブワジェイの父は足を悪くしてからというもの息子や侍女に粗暴に当たり散らし, 戦場帰りのヤンは幼いブワジェイに過酷な訓練を押し付け, 彼が文句を言おうものなら泣き虫とあざけりさらに重い訓練を課すとゆうありさまだ. モスクワ, タタール, 新興の軍事国家スウェーデン, 獅子身中の虫ザポロージャ・・・当時のポーランド敵は多い. 剣を振るえなければ生きていけない. つまりこの映画は17世紀のポーランドにおける過酷なメキsコを表現しているといっても過言ではない. メキスコの過酷な日差しで倒れるようなうらなりぼうやではこの時代を生き残るのは難しい.

この歴史ドキュメンタリはポーランドの武術研究団体 Sieniawski Fencing 全面的な協力そして各方面の専門家の監修のもとに制作されている. 彼らの伝えるサーベル剣術は Sztuka-krzyzowa - Art of Cross-cutting, ・・・かっこうをつけて翻訳するなら「ポーランド十字流剣術」と名付けられている. 地面に描いた十字架を起点としたフットワーク, 斬撃も十字形を基本として,ときに逆行し, 時に刃の裏側で奇襲する・・・おもしろいことにポーランドのサーベルは日本刀とは異なり先端だけ両刃になっているものが少なくない. この団体は他にもいくつか動画をUPROADしてるので興味があれば見るとよい. たとえばこの動画の映像は本編でも使われている.

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幼いブワジェイが死ぬほど棒を振り続け, やがて流れるような太刀筋で十字に棒を操る青年となったとき, 本物のサーベルを渡される. 少年が真の男=SZABLAになった瞬間である. あとサーベルの製法についても解説がなされている. これも見どころだ.

なお, この作品に関して歴史考証の観点から批判的な記事があるが, それについてはポーランドの剣術に関する話でまとめて後日詳しく書くことにする*5.

とか書いていてずっと放置していたら, とうとうこの流派の人に個人レッスンを受けるに至ってしまった. 後日体験記を書くことにする.

視聴方法

これでお前は興味がでてきたはずだ. こいつは現在, Amazon とか iTunes でも配信しているが, タルサ・ドゥームのわなにより日本に住んでいる人間に対して強力なブロッキングがはたらいている. しかし FB 公式ページでANAUNCEされてるように Vimeo on Demand ならリージョンによらず視聴できる. 値段も1000円未満だ. 全編ポーランド語だが, 英語を始め複数言語の字幕が用意されている. 俺もポーランド語はまだほとんどわからないが楽しめた. つまりおまえも楽しめる可能性があることが完全に照明されている.

あとなんかよくわからんが公式に字幕テキストファイル (SRT形式) が https://www.dropbox.com/sh/jtfpfvskx1vcd8h/AACcpsHduQL2Cuc0cyBGihbGa?dl=0 でダウンロードできるようになっているのでどうしても英語が苦手で字幕を追いきれないならこれを機械翻訳するとよいかもしれない. aegisub とかは字幕を編集しつつオーバーレイできるので便利だ. これはおまえとおれだけのひみつだ.


*1:Jan Jerlicz, 演: Paweł Deląg

*2:Maciej Wronowski, 演: Maciej Kowalewski

*3:Błażej; 幼少期の演者: Wiktor Osiński, 青年期: Bartosz Sieniawski

*4:ポーランド語では szabla と書く

*5:おれは以前にもこんなテキストを書いたが, 今見返すと自分でも変なことを書いていた. 近いうちになんか手を打ちたい. https://under-identified.hatenablog.com/entry/2019/01/12/163356