under-identified’s diary

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オーセンティックな🍗チキンキエフ (キエフ風カツレツ)🍗のレシピ


概要

最近, ミニストップチキンキエフ (キエフ風カツレツ) が販売されていたらしいが買う機会に恵まれなかったので自作した. すでに日本語でレシピを紹介しているサイトは数多くあるが, オーセンティックというかオールドファッションなキエフ風カツレツの作り方が紹介されているページはないようなので, 高級レストラン風のレシピをここで紹介する. 手間ばかりかかるレシピだが物好きな人は挑戦してほしい.

うんちく

キエフ風カツレツのバリエーション

早くレシピや写真が見たいという人はこのセクションは飛ばして良い.

鶏肉の中にバターを仕込むという点では共通しているが, キエフ風カツレツの作り方はいくらか幅があるようだ.

  1. 鶏胸肉を薄く引き延ばしてバターを包む

  2. 胸肉に包丁を入れてバターを差し込む

  3. ひき肉にしてメンチカツの要領で作る.

(1) のタイプのレシピはたとえば以下のようなサイトで紹介されている

キエフ風チキンカツ | 明治の食育 おすすめレシピ|明治の食育|株式会社 明治 - Meiji Co., Ltd.

(以下のレシピはささみを使い, 叩いて延ばすのではなく切り広げている. 胸肉だとけっこう大きくなるので妥当なアレンジだと思う).

キエフ風カツレツ|キユーピー3分クッキング|日本テレビ

単に延ばすだけでなく手羽元の骨を残して骨付き肉の形に作るのがソ連時代以来のレストランでの作り方らしく, 以下の動画で紹介されている (日本語字幕あり). 今回私が「オーセンティック」と読んでいる製法がこれ. 「多くの食通に好まれながら, 自分で作ることは難しいと恐れられていた」レシピとのこと.

🍗КОТЛЕТЫ ПО-КИЕВСКИ - классический пошаговый рецепт! - YouTube

(2) は最も手軽に作ることができる. 日本語での作り方も紹介されている. 特に動画のものが作り方がイメージしやすいが, 他の2つもヒントが多い.

食卓のひみつ「チキンキエフ」キャッチ!2019/12/18放送 - YouTube

チキンキエフ作ってみた|Sandwich/ウクライナ移住にむけて|note

香草たっぷりのバターがサプライズ。和知 徹シェフのキエフ風カツレツ|食|雑誌『家庭画報』公式サイト

(3) はネット上の口コミを見るに, ミニストップはこれに近い. ただし中身はバターというよりチーズとニンニク風味のクリーム? 的なものらしい. ネット上のレシピでミンチにする方法を紹介しているものは少ないが, 後述するように歴史的経緯を見ればさほどおかしな話ではない.

キエフ風カツレツはどこの国の料理か

ネット上でキエフ風カツレツを「リトアニアの料理だ」と紹介して, それはウクライナ料理ではないか, と指摘されている光景を見かけた. もちろん私はこの人をあげつらいたいのではなく, 「オーセンティックなキエフ風カツレツとはなにか」という話につながるので関心を持っただけだ.

Kijevo kotletai で検索すると, いくつも紹介するページを見つけられた. リトアニア語は詳しくないが, この語の字面からしてそのまま「キエフカツレツ」という意味のように見える. つまり, リトアニアでもキエフ風カツレツと同様の料理はすっかり定着しているようだ.

さらにポーランドでも “kotlet devolay” という料理があるようだ. devolay はフランス語の de volaille から来ているようで (というか「カツレツ」も “kotlet” も “котлета” もフランス語の côtelette から来ているのだが), そのまま「鶏肉のカツレツ」という意味になる. バターを鶏胸肉で包んで揚げるのはキエフ風カツレツと共通している.

Kotlet de volaille (devolay). Soczysty z masełkiem w środku i po prostu pyszny. MENU Dorotki. - YouTube

そして, 本家のキエフ風カツレツの話に戻ると, 一説にはこのポーランドでの呼び方と同じように当初は “côtelette de volaille (котлета де-воляй)” というフランス風の名前で紹介されていたという (しかしフランス料理にはそのようなものはない). つまりフランス料理になんらかの着想を得た料理らしい. その起源については有力視される説が2つあり, どちらも帝政ロシア末期 (19世紀後半-20世紀初頭) の時代にペテルブルクで考案されたレシピだが, どちらが起源かは自明でないようだ (アメリカでウクライナ系移民によって作られたと言う説もあるが, 時系列では後の出来事になる)*1.

例えば『ロシア・ビヨンド』の記事

ロシア人なら誰でも大好きな鶏肉のカツレツ3つ - ロシア・ビヨンド

では, ロシアの3種類の鶏肉を使ったカツレツ料理を紹介している. 当初の côtelette de volaille は現在のキエフ風カツレツとはひき肉の使用や詰め物がバターでなかったなど差異がある. もしかするとこれらの類似料理のレシピが混同された結果なのかもしれないが, それも私の想像にすぎない. その点で言えば, オーセンティックなキエフ風カツレツは (1) のように肉を延ばすのではなく (3) のようにフランス料理風にひき肉にすべきなのかもしれない.

そして, (名前の通り) ウクライナの首都キエフのあるホテルのレストランに “котлета по-киевски де-валяй (キエフ風 côtelette de volaille)” というメニューがあったと証言するインタビューが存在し, これが現在のキエフ風カツレツの起源だとする異説もある*2.

さらにいうならソビエト時代はキエフ風カツレツの名目でかなり簡略化された鶏肉の加工食品が大量生産された (そしてフランス風の名前がブルジョア的であるということで改名させられたのもソ連時代) らしいので, キエフ風カツレツのアイデンティティはかなり複雑になる.

ということで, キエフ風カツレツはロシアとウクライナにとどまらずリトアニアポーランドに至るまで類似料理が存在するし (この調子ならベラルーシにも間違いなくあるだろう), 歴史的な背景まで考慮するとフランスの食文化も影響し, 現在の料理との連続性を見ても不明なことがはるかに多い. このような文脈で料理の同一性にこだわるのはテセウスの船のようなもので, 私にはナンセンスな気がする*3し, 私は一次史料を閲覧することが出来ないので, これ以上は何も断言できない.

作り方

材料 (うまくいけば最大で4人前)

  • 鶏 1羽 (内臓・頭・足を取ったものが良い)

    • クリスマスシーズンなら普通のスーパーにも売っているはず

    • なければ胸肉1切れに対してささみを1つ用意する

  • バター 100 g

  • パセリ (新鮮なイタリアンパセリが良い) 適量

  • ディルの葉 適量

  • レモンの絞り汁 少量 (小さじ1杯程度?)

  • 塩・胡椒 少量

  • ニンニク (お好みで/適量)

  • 小麦粉 100 cc?

  • 卵 2個

    • カツレツ2個あたり1個の計算

  • 牛乳 50 ml

  • パン粉 100 g?

    • 天ぷら・とんかつ用ではなく細かいパン粉が望ましい?

  • 油 適量

  • ポテトピューレまたはフライドポテト (付け合せに)

図 1: キエフ風カツレツの材料 (レモンの皮が禿げているのは前日にヴァーノチカを作るのに使ったため)
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手順

ハーブ入りバターを作る

室温で柔らかくなったバターに刻んだパセリとディル, レモンの絞り汁と小さじ半分程度の塩を混ぜる*4*5 (図 2). 私は持ってないがハンドミキサーやフードプロセッサーでやってもいいだろう. 袋かラップに包み, 棒状に形成して冷蔵庫に入れる (図 3).

これを「エスカルゴバター」であるとか, 「メートルドテルバター」 (フランス料理の Beurr maitre d’hôtel のこと?) であるとか紹介するサイトもある. キエフ風カツレツの由来からしてもフランス料理の影響を受けている可能性はおおいにあるが, ロシア人やウクライナ人は上記のようにニンニクとディルを入れることにもこだわりを持っているようなので正確には違うニュアンスを持つと思われる.

図 2: フードプロセッサーがない場合, 手作業で混ぜる
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図 3: 棒状に整形する (まな板が汚いのは許してほしい)
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肉を切り出す

国内のスーパーで売っている胸肉はふつう手羽が切り離されているが, ここではつながったものが必要になる. そのため一般的なやり方とは違う切り取り方が必要になる.

まず, 鶏の腹に包丁を入れ皮を切る. 皮をはぎ, さらに腹の軟骨から胸肉を切り離す. 一般的な方法ではここでささみを分離するが, 今回は腹中央の軟骨に沿って包丁を入れ, 胸肉につなげたまま慎重にきりとる. 手羽側は形の関節で繋がっているため, 先に尻側から切って最後に肩を取り外すのがやりやすい. モモ肉と胸肉は皮でつながっているだけなのでここも難なく外れる. 手羽の周りだけで繋がっている状態になったら, 包丁で関節を探り当ててそこから切断する. 無理に骨を切断しようとすると鋭利な破片ができて危険である. 骨を切り離せたら, あとは皮で繋がってるだけなので手で外せる. 切り離した胸肉は手羽元と, ささみがひだのように繋がっていれば成功. これを両胸で行う. このへんはテキストではわかりにいと思うので動画を見て欲しい.

次に, 手羽中より先を切り離す. これも関節が軟骨になっているため簡単に切断できる. 切り離した手羽は使わないので好きにしていい. そして手羽元に残った肉も包丁でこそげ取り, 骨を露出させる (図 4).

図 4: 切り取ったところ
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肉を叩いて伸ばす

動画によると, ソ連時代は胸肉1つでチキンキエフ1個を作っていたらしいが, 現在のブロイラーはかなり肥大化しているのでさらに半分に切って2個作ることができる. まず, ささみをきれいに切り取る. 次に, 胸肉を半分にスライスする. よって骨の付いているものと付いていないものが1つづつできる. これらを叩いて薄く伸ばす. (3) の方法では棘付きのハンマーで叩いていたが, ここでは破れないようにトゲのないハンマーで慎重に叩く必要がある*6. 動画のように, 強く叩きすぎず, 小刻みに軽く, 中心から外へ伸ばすように叩き続ける. また, 平たいハンマーでも表面はそれなりに傷つくので, 両面を叩くと破れやすくなる. 延ばすときは片側だけを叩くようにするとよい. 動画のように均等な薄さで円に近い形になればいいのだが, これが結構難しい. そもそもスライスする時点で均一に切る必要もあり, きれいな形のカツレツにするには練習が必要である*7.

ささみは 3-4mm まで延ばす (図 5). 胸肉は分厚いので, これより少し厚くても良さそう.

図 5: 延ばしたささみ (まな板が汚いのは許して欲しい)
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肉を包み揚げる

最初に作ったバターを取り出し, 均等に切る. 半分に切断し, さらに割るとちょうどいい大きさになる.

伸ばしたささみは半分に切って, バターを包む. これはおそらく必須ではないが, うまく包めればバターが漏れにくくなると思われる(図 6).

胸肉は内側 (叩いた側) に塩胡椒を振る. ささみで包んだバターを乗せて包み, 紡錘型にする (動画では「ボートの形」と表現). ここで肉が厚すぎたり, バターとの大きさのバランスが悪いとうまく包めないが, そこは形を整形するなどしてなんとかやってほしい. そして, バターを固めて型くずれしにくくするため, 一旦冷蔵庫で1時間程度寝かせる.

図 6: ささみでバターを包む, こちらは破れていてもあまり問題はない
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あとはよくあるカツレツと同じで, 小麦粉, 溶き卵, パン粉の順にまぶしてから油で揚げる (図 7). ただし,

  • パン粉を付ける際には剥がれないように軽く手で抑えて形を保ちながらやる

  • 溶き卵とパン粉は二度付けする

  • 溶き卵には塩を少し加え, 牛乳を少量入れて混ぜる

としている*8. また, パン粉は日本で売ってるような天ぷらやとんかつ用の目の粗いものではなく, 細かいもののほうが適しているかもしれない. よって欧米人がやるように乾いた古いパンを砕いてパン粉を作っても良いかも知れない. さらに, このとき手でべたべた触ると形が崩れやすいので, 動画のように両手にフォークをもって支えると良いかもしれない.

図 7: 揚げる直前
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これを 170度の油で揚げる*9. 中はバターなので見かけの大きさよりも火の通りが早い. 表面がきつね色になるまで揚げればだいたい中まで火が通っている (図 8).

これでも食べることはできるが, さらにオーブンで180度Cで12-15分程度加熱する (私はオーブンを持ってないのでオーブントースターで適当にやった). これはよけいな水分を飛ばしてサクサクにするための処理らしい*10.

図 8: 揚げた直後
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盛り付ける

フライドポテトとグリーンピース, そしてパセリの葉を添えるのがレストランでよくある盛り付けらしい. フライドポテトの代わりにポテトピューレを添えることもあるようだ. もっと気取りたいなら, ローストチキンにもよく使うあの紙の飾りを付けても良い.

ナイフを入れてハーブとバターがどろっと漏れ出したら成功 (図 9).

当たり前だが鶏肉では完全には密閉できないのでなるべく揚げたてを食べると良い.

図 9: 飾りがかえってキッチュさを醸し出している
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*1:https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Chicken_Kiev&oldid=996351971

*2:https://zn.ua/SOCIUM/neprostitelnaya_oploshnost.html

*3:たとえば寿司だって世界中で認知されているが, 各地でわれわれが想像もしないようなネタが生まれている. ましてや見かけ上は同じに見えても味付けや香りへのこだわりは人それぞれなのだから. 文化は我々哺乳動物と違い, 融合したり, 枝分かれしたり, 相互作用したりする.

*4:ディルは手に入りにくいと思うが, できればイタリアンパセリは欲しい.

*5:ニンニクを入れる場合も多いが, これまで数回試した結果, ニンニクは自己主張が強すぎるのでカツレツを割った時のバターとハーブの香りを楽しみづらくなると感じたので使わないことにした.

*6:麺棒でも可能だろうが, 軽すぎるものは向いていないだろう

*7:動画のようにラップを敷いて叩いているが, ラップの吸着しやすさでも仕上がりが違うかも知れない

*8: (2) の中京テレビ放送の動画で紹介されたシェフは, 衣と肉に隙間ができてしまうから衣は薄くする, と言っているが, 今回参考にしたロシア語の動画ではそれは気にしてないようだ.

*9:ロシアでは爪楊枝を入れて油の温度を確認するらしい. 我々には菜箸があるのでこの方法を取る必要はないだろう.

*10: (2) のバターを差し込むだけの方法では密封が難しいためこれをやるとバターが漏れやすいのでオーブンでの追加の加熱はおすすめできない. ただし今回の方法でも少量のバターが漏れることがある