Since 2014, there has been a certain meme on the internet that really annoys me. I know, I’m a grumpy old man, and memes tend to annoy me anyway, but this particular meme stems from an incorrect translation and an incorrect interpretation. (2014年以降、私を苛立たせるあるインターネットミームが存在しています。私はこの通りいつも不機嫌な老人であり、あらゆるミームにいらいらしがちな人間ですが、この件に関しては不正確な訳と誤った解釈に由来しています。 )
Keith Farrell, 2017
HEMA, つまり西洋剣術に関して, 「柄頭1を投げる」技があるという話が一昔前から広まっている. 一方で, この話は本来の研究から独り歩きしてもいる. 見落とされているのは, 1つは, この話で有名になった “End him rightly” という表現が誤訳である可能性が高いということと, もう1つは, 柄頭を投げるという戦い方が実現できたか, 実際に広く用いられていたかは怪しい, という2点である. この話題は全く目新しいものではなく, 以降で言及している Keith Farrel 氏の投稿も10年近く前のものである. 私が見つけたのも数年前であるが, 話題になってないのでせっかくだから紹介する. 問題のミームは, 2014年12月に, Skallagrim というYouTuberによって投稿された動画2が発端になっている. 彼は古い剣術の文献に, 「剣の柄頭を外して相手に投げつける」という変わった技があることを紹介した. その方法を記述する一節を “end him rightly (正当に相手を始末せよ)” と訳して (当時の文献の多くは, 古いドイツ語で書かれている) タイトルにも冠して紹介した. その結果, このフレーズは当時インターネットミームとして広まった. しかし, HEMAのインストラクターである Keith Frarrel 氏は, 投稿者本人は, 15世紀の武術書には珍妙な技があったという話を広めたいという純粋な意図だったのかもしれず, ミームとして広まったことは本人の過失ではないが, このフレーズは誤訳であるので訂正したい, と主張している. Keith Farrel 氏は自身のブログの「"End him rightly" – a translation error」という投稿で, rightly という訳をあてるのは不正確だと主張している. 中世のドイツ語は現代と様々な点で異なる. 単語のスペルにしてもゆらぎが多い. ここで rightly に対応する原文の単語は reschlich, reschlach などと表記されている. Farrel 氏は, 複数の写本を比較したうえで, この場面で本来意図していたものを考えた. ここでは, 私の手元にある Hagedorn and Walczak (2015) の原文の転写と訳を引用する. この翻訳は2015年に刊行されたもので, 底本は Gladiatoria の写本のうち, 1430年ごろに作成されたと考えられるもので, コネチカット州ニュイーヘイヴンにあるイェール大学の施設である Yale Center for British Art に所蔵されている. 以下の一節は, 5rの冒頭部分である. 太字強調は私の手による.
概要
背景
誤訳
Merkch das zwelifft ob bw widldt reschleich mit ym entten So nymb deinen spye[s] vnd swert zw samb an den arm vnd schrawff ab den knöch von deinem swertt vnd wirff hertikchleichen in in vnd lauff nach dem würff mit ym ein unv [nütz] swert oder spyes welichs dir eben sey
この通り, 当時の文章はスペルも正書法も異なるし, 句読点も付されていない. 以下は現代独語訳である. 太字強調は私の手による.
Beachte das zwölfte [Stück]. Wenn du rasch ein Ende mit ihm machen willst, nimm Spieß und Schwert zusammen an den Arm. Schraub den Knauf deines Schwerts ab und wirf ihn heftig zu ihm. Lauf ihm nach dem Wurf ein und setz Scwert oder Spieß ein, je nachdem, was dir passend erscheint.
そして以下は現代英語訳である.
Note the twelfth [piece]. If you want to finish him quickly, then take your spear and sword together on your arm, unscrew the pommel from your sword and thwrow it at him forcefully. Run into him after the throw, and use the sword or the spear whichever your consider appropriate.
Hagedorn 氏らの訳でも, rasch/quicky という訳語が使われている. なお, Farrell 氏はこのように訳している. 大意は変わらない.
Note the twelfth technique. If you want to finish with him quickly, take your spear and sword together on your arm, then unscrew the pommel from your sword and throw it at him vigorously. Run in after the throw and use sword or spear, whatever will be best.
Keith Farrell の訳
いちおう, Hagedorn and Walczak の英訳を私が訳すとこうなる.
「図其の12に注目せよ. 相手にすばやくとどめを指したいと欲するなら, 槍と剣の両方を片手に持ち, 柄頭を剣からねじり外し, 相手に力強く投げつけよ. 投げたら相手に走り寄り, 剣であれ槍であれ適切なものを用いよ」
原典では, 挿絵の下にその説明が書かれているという構成になっており, 図12も同じページに書かれている (図 1).

図 1: MS U860.F46 1450, 5r
英訳文だけを見れば解釈がゆらぐ余地の少ない, 簡潔な文である. そのため, 現代独・英訳が適切かどうかが問題の焦点となる. Farrell 氏は, 類似の用例と, 前後の文脈の両方からこの語を「quickly/すばやく」と訳すのが適切だとしている. まず, reschlich という単語は, 他の技の紹介でも見られ, それらの文意を考慮すれば「素早く」と訳すのが適切である. そして上記の一節でも, 素早く, 効率的に戦いに決着を終わらせる方法として柄頭を投げつける方法を提案しているとみれば意味が通り, 「正しい」「正当な」方法と言われても意味が通らない. 結局, end him rightly という記述は,
(相手の注意をそらしている間に)すばやく相手に致命打を与えろ
と解釈したほうが適切だとしている. 有名な Hans Talhoffer の写本の1つ3にも, 軽装備の男が対峙した相手の顔に向けて帽子を投げつけ注意をそらしつつ, 胸に向かって短剣を投げつけているという挿絵がある (図 2). Talhoffer の写本は解説文がほとんどないため詳細は想像するしかないが, おそらくこのような不意打ちの技術を表した絵だろう. ものを投げつけて注意を逸らすというような意表を突く手段は効率よく, あるいは早急に勝つ方法の1つであるが, 他にも様々な手がある以上「正しい」方法と呼ぶのは不適切だろう.

図 2: MS Thott.290.2º, 77r, Det Kongelige Bibliotek, パブリックドメイン
つまり, 古い文献が本来意図していたのは, “rightly (正当に, 「正しい」方法で)” 相手にとどめを刺すことではなく, “quickly (すばやく)” 相手にとどめを刺すことであり, この誤ったミームもそのような対処をされなければならない, と彼は締めくくっている.
補足: 異説について
一方で, この文に対して別の解釈を考える人たちもいる. 上記のような主張と反しているため, Farrell らHEMA業界の多くの人からは支持されていないだろう. 何かを投げつけるのは決闘の合図であり, 敵を倒す技術ではなく正しい作法の話をしているというものである. これならば, rightly という表現とつじつまがあう.
しかし, この理論は論証の作法からはいささか「正しくない」. この理論は「何かを投げつけるのは決闘の合図である」「ここでは柄頭を投げることが決闘の合図になっている」という2つの仮説が背後にある. これらは, まだ裏付けが取れていない新しい仮説である. 「何かを投げつけるのは決闘の合図である」というのはいくらか傍証があるが, それが柄頭である必要はなんなのか, 正当な作法に則っているのに不意打ちをするのか, といった疑問が新たに発生する. それに, これとは別に, 決闘を始める際の作法を描写している武術書の写本は他にもいくつかある. それらに全く言及がないのはなぜなのだろうか. 何かを説明するために新たな裏付けのない仮説を増やすのはこのように論理を過剰に複雑にしてしまい悪手であり, 世間的には「こじつけ」と呼ばれる. それに, Farrell 氏の言う, 他の用例を見ても reschlich は「素早く」と訳したほうが意味が通るという根拠について何も反証していない.
ただし, 当時の文献の内容が全て説明できており, 疑問が全て解消されているわけではないことも記しておこう. 当時の武術書の多くは, 1ページごとにある技の解説文と, それを実演する相対した2人の剣士の挿絵が描かれている. そして Jörg Wilhalm の武術書と呼ばれる写本 Cgm 3711 のあるページには, プレッツェルを掲げたおばさん? が描かれている (図 3). この人物に関して, 本文には全く言及がない. この写本には他にも, 仮装行列のような格好をした剣士 (図 4) や, 地獄から現れた悪魔としか形容できない人型の存在が剣士として描かれている (図 5). これらの意味するところはよくわからないが, 特に意味がない, が答えであることも十分ありえる. 全体として変な格好の人物が多いため, 当時の祭日の様子を表している, とかもっともらしい憶測の説明ならいくらでもできるだろう.

図 3: 唐突に現れるプレッツェルおばさん (?) 真下の文はこの技の解説文であり, この人物の説明とは全く関係ない. Cgm 3711 11r, バイエルン州立図書館所蔵, パブリックドメイン

図 4: 仮装パーティ? Cgm 3711, 12r

図 5: 悪魔, Cgm 3711, 37r
物的証拠
以上は Farrell 氏による, インターネットミームのフレーズが誤訳であり, 不正確な話を広めているという指摘である. では次に, そもそもここで紹介されているような技が実現できたのかということを考える.
このミームを承けてか, 中世風の剣や鎧が出てきて, 柄頭を投げつけられるゲームが存在していることを私も確認している. では, そもそも柄頭というのは簡単に外れるものだろうか. もっと後の時代であれば, 柄頭をネジで固定するものが多い. 現代のフェンシングで使われる剣や, 20世紀の騎兵用サーベルなど様々なものがある. ネジ式の柄頭は簡単に外せるので, 取り付けることも取り外すことも簡単である. 例えば 図 6 は, フェンシング用品のメーカーとして特に有名な企業の1つである, PBT社製の, エペ種目で使われる刃である. なお, フルーレはその形状のため固定用のナットが柄に埋没していることが多く, 柄頭に相当する部分が事実上ない.

図 6: PBT製のエペの刃, PTBのECサイトより
しかし, 15世紀頃の剣はどうだったのであろうか. 15世紀頃の剣の柄頭の多くは, カシメとして固定していると考える人が多い. カシメでは簡単には取り外しできず, 外せたとしてもそれはおそらく, 剣が壊れた時である. 視覚的にわかりやすいのは, ゲーム “Kingdom Come Deliverance” の序盤にある, 鍛冶屋が剣を作る場面だろう. ゲーム内の映像ではあるが, 結果として教材として使えうる再現映像である. 打ち終わった刃の端, 日本刀でいう茎(ナカゴ)にあたる部分に鍔を通し, 筒状の柄を通し, 柄頭を通し, 最後にナカゴの先端を金槌で叩いてつぶしている. つまり, ここで描かれる剣の柄頭はネジではなく, 「カシメ」のように固定していることになる (カシメという表現が適切なのかは自信がないが, 一旦はこう呼ぶことにする). 別の方法に, 柄を縦に割り, ナカゴを包むように接着するという方法もある. 日本刀のように, ナカゴに穴を開けて目釘を通すという方式があるという話は見つからない.
しかしながら, 古い時代の製品は規格化された大量生産品ではないため, 全ての個体がこのように作られているとは言えない. 以下のような掲示板の古い投稿には興味深い意見がある.
スレッドでは最終的に, 当時のネジ式の剣は残っていない, いいや当時の挿絵にみられるのだから, あってもおかしくはない, という水掛け論で終わってしまっているが, その途中で現れた以下のような情報は有用である.
- ネジ構造の加工品自体は, 例えば古代ローマ時代のブドウ圧搾機など古くからある
- 金属にネジ山を切るのはより難しく, 古いものでは15世紀半ばに金属ネジが見られる
- 柄頭の固定にネジを使った剣で現存している最古のものは17世紀頃の個体である
- 文献上でなら, ネジを使用している剣が見られる
最後のネジを使用している文献というのは具体的に2つある. まず, 今回問題になっている Gladiatoria がそうで, 「柄頭をねじって外す」と書かれていることから, ネジ式の柄頭の使用を想定した記述である. 同様に, Talhoffer にも, 柄頭をネジ止めしているような剣の絵が掲載されている (図 7). 通常の剣では, 柄頭を外すと柄も外れてしまうため, 一旦柄頭を投げれば剣が用をなさなくなるという問題がある. しかし戦闘中に外すことが前提の剣を作れれば, この問題は解決するだろう.

図 7: ネジ式の柄頭のようにも見える中央の剣, MS Thott.290.2º, 108r
一方で以下のスレッドでは当時の剣を再現して製作する立場の人々が, ネジ式とカシメ式の比較を議論している.
これらでは, なぜネジ式を使わないか・後世はネジ式を使うかという観点の議論が多い, 取り外す必要があまりない, 異物が入り込んでほしくないところは密閉したほうがよいためカシメ方式にしている, という推測が見られた. 逆にネジ式にする理由として, 後世のレイピアにあるような複雑な構造の鍔は取り外して交換したりメンテしたりできたほうがありがたい, という実利面を強調した意見がある.
このように, 確実に裏付ける物的証拠は残っていないが, ネジ式の剣はなかったというのが有力で, 業界の多くの人間は, 当時はカシメ式が主流で, ネジ式の剣はあったとしても稀だったと考えている.
ただ, ネジ式の剣を作る事例があって, 取り外せるようにしたとしても, 取り外しに数秒かかるような動作が不意打ちに使えるのか, 実用的なのか, という問題は残る.
最後に
元々の議論に立ち返ると, Farrel 氏が既に挙げたように, Talhoffer では帽子を投げつけて注意を逸らしている. 重要なのは相手の注意を逸らすことで, それさえできるなら投げつけるものは柄頭でなくてもよい4ということを示唆している. 当時の人々は剣術を実戦で使用していたのであって, 決まった型動作を再現することが目的ではなかったはずだ. よって, 柄頭投げ専用のネジ止め剣を用意できた場合や, 剣がたまたま壊れた場面であれば実践できるし, それ以外の状況でも, 手近な投げられるものを何でも投げつければ, 同様の効果を期待できることだろう.
参考文献
Hagedorn, Dierk and Bartłomiej Walczak. 2015. Gladiatoria: New Haven, MS U860.F46 1450. Bibliothek der historischen Kampfkünste 4. Herne: VS-Books.