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Estampie の "Linden So Grön" の歌詞の意味

Estampie の "Linden So Grön" と元になったとされるスウェーデンの中世民謡 "Den förtrollade barnaföderskan" の歌詞の翻訳. ただしあまり信頼しないで欲しい. というかこの辺に詳しい人がいたら教えて欲しい.

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Kaditzer Linde, by Carl Wilhelm Arldt, 1840s, パブリックドメイン

初めに

Akademia Szermierzy というポーランドの HEMA団体が Fiore dei Liberi の剣術を再現している動画がある.

www.youtube.com

ここで BGM として使われている Estampie の "Linden so grön" という曲が印象に残った. しかし歌詞が全く分からない. "linden" は菩提樹のことだろうが, そもそもポーランド語とも全く違う雰囲気だ. この曲は Estampie というドイツの音楽グループのものらしい (Estampie は中世ヨーロッパの音楽全般のことを指す一般名詞でもある).

www.youtube.com

公式でない動画*1のほうではこの歌詞の意味についてコメントがあった.

"Linden so grön" の歌詞はスウェーデンの民謡を元にした (あるいはバリエーションの1つ?) ものらしい*2. その書き込みをヒントに調べてみたが, そもそも私はドイツ語はおろかスウェーデン語も全くわからない. なので細かいニュアンス伝える点で信頼できないことは分かっているがGoogle翻訳ウィキペディアの記述とかも鵜呑みにして調べた結果をまとめておく.

Linden so grön のバックグラウンド

"Linden so grön" はスウェーデンの民謡 "Den förtrollade barnaföderskan" (魅入られた出産) が元になっているらしい. スウェーデン語版ウィキペディアの "Den förtrollade barnaföderskan" をGoogle翻訳をもとに読むと, この歌は「超自然的な神話」を題材にしたスウェーデンの中世民謡*3であるらしい. 11のバリエーションがあり (そのうち3つはスウェーデン語のフィンランド方言), もっとも古いものは1600年ごろから見られる (以外と新しい).

"Den förtrollade barnaföderskan" はスウェーデンのいろいろなフォークバンドが歌っている. 例えば以下.

www.youtube.com

少し古い録音

www.youtube.com


イギリスの民謡 "Willie's Lady" もこの歌のバリエーションの1つらしい.

歌詞の翻訳

この歌の歌詞とされているテキストは実際には "Den förtrollade barnaföderskan" のものであることが多い. どうやら この投稿が正しい歌詞のようなので, まずはこれの翻訳を掲載する.

"Linden So Grön" / 菩提樹の下で

その村の南には菩提樹があった
- 全ては葉の生い茂る大樹の下での物語 - (繰り返し1)


そこに乙女が髪を梳かしていた
- 私は彼女を丁重に馬に載せ木立を歩いた - (繰り返し2)


そこに乙女が髪を梳かしていた
- 私は彼女を丁重に馬に載せ木立を歩いた -


愛しい継母が教えてくれた
(繰り返し1)
「子どもはどれだけお腹の中にいるの?」
(繰り返し2)
「子どもはどれだけお腹の中にいるの?」
(繰り返し2)


「8年と40の週よ」
(繰り返し1)
「ずっとお腹の中にいるの!」
(繰り返し2)
「ずっとお腹の中にいるの!」
(繰り返し2)


皆は彼女に銀の留め具のある靴を履かせた
(繰り返し1)
彼女はとても不安げに床を歩いた
(繰り返し2)
彼女はとても不安げに床を歩いた
(繰り返し2)


皆は彼女の足元に青い飾りを振りまいた
(繰り返し1)
彼女はおのこを二人産んだ
(繰り返し2)
彼女はおのこを二人産んだ
(繰り返し2)


エリンは誇らしげに櫃に歩みよる
(繰り返し1)
そこには彼女の編んだ蝋人形が入っている
(繰り返し2)
そこには彼女の編んだ蝋人形が入っている
(繰り返し2)


櫃は片付けられた
(繰り返し1)
彼女は誇らしげに子どもを取り上げる
(繰り返し2)
彼女は誇らしげに子どもを取り上げる
(繰り返し2)


小姓が立って彼女の髪を梳かす
(繰り返し1)
私は今日で8年目になる
(繰り返し2)
私は今日で8年目になる
(繰り返し2)

悩んだところ:

  • kistan が coffin と訳されてしまう. ぐぐると確かに棺の画像が多くヒットするが, 一方で長櫃や戸棚の画像もそれなりに出てくるので, 元の歌詞とも照らして「櫃」と訳した
  • 8年間妊娠するとは……? バックグラウンドが分からないので「超自然」というよりむしろ「超現実」な感じがする. しかし少なくとも英語ではこの民謡がどういう状況なのか解説したものは見つからない

楽譜

http://www.stefanlinden.se/S/V/DIV/D/D061%20Den%20fortrollade%20barnafoderskan%20Det%20standar%20en%20lind.pdf


元になった "Den förtrollade barnaföderskan" の歌詞と比べて, 繰り返しが多い.

Den förtrollade barnaföderskan / 呪われた出産

次に元の歌詞も紹介する. 動画のコメント欄で紹介されたページの英訳に基づく. なおこの翻訳の作成者は原文の雰囲気を重視して, 現代的な英語ではやや不自然な単語を使ったとのこと.

その村の南には菩提樹があった
- 全ては葉の生い茂る大樹の下での物語 -


そこに乙女が髪を梳かしていた
- 私は彼女を丁重に馬に載せ木立を歩いた -


彼女には美しい許嫁の男がいた
その若い男の名はオロフ卿


幼いエリンが継母にたずねた
「子供は生まれるまでどれだけお腹の中にいるの?」


「8年と40の週
こんなに長くあなたのお腹の中にいるのよ!」


皆はエリンを絹布で飾った
彼女は床を歩くのも苦しそうだった


オロフ卿は愛する妹に訊いた
「おお妹よ, 私に何かできることはないか?」


妹は嫁入り道具の櫃へ向かい
大いなる術で2つの蝋人形を作り出した


そして人形を白い麻布で包み
彼女の母の屋根裏に運んだ


「愛する母の病が消えますように,
私はあなたの手に男の子を抱かせます」


「私は天からも地からも呪われてしまった,
嫁入り道具のあるただこの場所を除いて!」


すると櫃から青い絹の糸が広がった
そして彼女はおのこを二人産んだ


これはオロフ卿の母を大いに苦しめた
- 全ては葉の生い茂る菩提樹の下の物語 -
その後間もなくして彼女は亡くなる
- 私は彼女を優しく馬に乗せ木立を歩く -

"Den förtrollade barnaföderskan" (魅入られた出産)

*1:https://www.youtube.com/watch?v=BlUOVkWxjyU

*2:動画のコメントによると, スウェーデンの民謡を元にしているのは間違いないが, スウェーデンネイティヴ話者にとってはわかりづらいとのこと. もしかするとドイツ語訛りということなのかもしれない.

*3:ヨーロッパの中世民謡は学者によってジャンルが細かく分類されているらしい. この歌はスウェーデン中世民謡のカテゴリ A とのこと.