買って1年くらい放ったらかしていた本の紹介.
Russ Mitchell 著 "Hungarian Hussar Sabre and Fokos Fencing" を紹介する.
タイトルの通り, ハンガリーの軽騎兵のサーベル術を紹介する本で, 著者はチャバ・ヒダン (Csaba Hidán) という人物からインストラクションを受けている. ヒダン氏の祖父は第一次世界大戦末期にオーストリア=ハンガリー帝国の騎兵訓練教官を務めていて, 彼も祖父からインストラクションを受けたという. もちろん当時の記憶だけでは心もとない. 彼らは当時の文献にも取材して, 末期の二重帝国で教えられていたサーベル術の研究を深めている.
Hungarian Hussar Sabre and Fokos Fencing
- 作者:Mitchell, Russ
- 発売日: 2019/04/06
- メディア: ペーパーバック
今確認したらその後 Kindle版が出ていたようだ. Kindle Unlimited 対象でもある.
Hungarian Hussar Sabre and Fokos Fencing (English Edition)
- 作者:Mitchell, Russ
- 発売日: 2019/09/09
- メディア: Kindle版
著者による実演動画がYouTubeにある (公式のものかは不明, 他にもいくつかある)
もちろんここで本書の内容をコピペするわけにはいかないので, 大まかな特徴と, 感想だけを述べておく.
本書の特徴は, タイトルにもあるようにサーベルだけでなくFokosという武器にも焦点を当てていることである. Fokosはサーベルではなく斧である. 長い棒に片刃の刃を取り付けて, 両手で握って使用する. いわゆる Shepherd's axe と呼ばれるタイプの形状である. 刃は小さく, かばんやポケットに入れられる程度の大きさである. つまり, 刃だけを携帯し, 必要なときに手頃な大きさの枝を加工して装着することで運搬が容易になる. このような武器の起源は中世にまで遡るらしい. サーベルもそうだが, 斧の戦闘技術に関する文献はかなり珍しいのではないだろうか. もちろん, Fokosでサーベルを持った相手と戦う方法も紹介されている.
また, 19世紀末~20世紀初等に書かれた当時の教本を抜粋し翻訳したものも掲載されている.
私は近現代の軍事史に詳しくないのだが, 画像を検索しても斧を装備している騎兵のイラストや写真はなかなか見つからない. そもそも両手で扱う斧は馬上でつかう想定ではないだろうが…… ハンガリー語版ウィキペディアの記事には, fokosというかツルハシのようなものを持つ18世紀の騎兵のイラストが掲載されていた.
本書を読んで受けた印象としては, 技法のシンプルさである. これまで中近世の情報ばかり追ってきたというのもあるが, 20世紀のサーベル術はかなりシンプルである. サーベルの攻撃は原則として4方向+刺突しかなく, これらの組み合わせで戦う. 例えば以前紹介した(このブログエントリも今読み返すとけっこうおかしなことを書いているが……)17~18世紀のポーランドのサーベル術に関してもけっこう複雑な動作や, 基本動作だけでもいくつも紹介している動画がみられるのとは対照的である. 軍事目的の技術なので, なるべく多くの人間に短期間で習得させる必要があるからだろうか? そう言えば以前某所で教えてもらったシステマも, 徒手とサーベルの基本的な攻撃動作が共通していて, かつシンプルだった. 教えやすさを重視した結果の収斂だろうか?
追記: この話に言及してる日本語のブログエントリを見つけた. 貼り付けられている動画, ハンガリーの話なのにウクライナのBGMなのはご愛嬌.
参考文献
Mitchell, Russ. (2019) "Hungarian Hussar Sabre and Fokos Fencing" Self-Published.